研究室に所属するということ

すでにいろいろなところで耳にしていることとは思いますが,これまでの生活:講義を聴いて,テストを受けて,単位をもらって・・・という受身の生活とこれから始まる (おそらく過酷で刺激的な)研究生活は,皆さんの想像以上に大きく違うことと思います.例えるならば,これまで母乳で育ってきた乳児が,いよいよ離乳食を経て普通食の生活を迎えることに似ています.確かにこれまでは講義形式が皆さんにとって十分な栄養と回数 (と愛情)を享受するための最善の方法だったかもしれません.しかしこれからは,自分の力で生きていく術を身につけるために,自分の意思で選んだものを食べ,消化していくことになります.研究室に所属するということ,それは皆さんにとって「覚悟して」新しい権利を獲得することです.覚悟がなければすぐにお腹を壊します.そういう場合は母乳生活に戻ったほうが賢明です.

視覚への興味

私達の研究室では,視覚の機能について研究しています.視覚はあまりに日常的な機能であるため,あまり深く考えたことがないかもしれません.でも,少し考えてみてください.なぜ私たちは簡単に「どこに何があるか」分かるのでしょうか?そもそも「色」とは何なのでしょうか?三原色はなぜ「3」でなぜ「RGB」なのでしょうか?飛んでくるボールをなぜよけることができるのでしょうか?なぜボールが飛んでくるとわかるのでしょうか?私たちの研究室で楽しく暮らすには「なぜそのように見えるのだろうか」という「好奇心」がまずもって必要です.基礎研究を行う場合も応用研究を実施する場合も,この好奇心がその後の困難を突破するための driving force になります.一見華やかな研究分野のように見えるかもしれませんが,世界中で熱い戦いが繰り広げられているこの分野で一流の研究を持続するのは,想像以上に強い忍耐が求められます.

学会への参加

研究が順調に進んで成果が得られるころは,本当にわくわくするものです.修士を修了するまでに一度は必ず学会で発表する機会が得られます (得られない,ということは修了できない,ということと同義です).視覚研究者は,工学部だけでなく,文学部 (心理学科)から医学部まで,非常に幅広い分野からの出身者が多いため,国内の学会に居ながらにして異文化経験を積むことができます.ちょっとおとなしめの技科大生にとっては刺激的なことでしょう.論文でしかその名前を知らない人に会って直接議論することも珍しくありません.研究室では会議参加の心得はもちろんのこと,Post Meeting の世界も責任を持って教授します.

世界を視野に入れた研究室

私たちの研究室では国内に限らず,海外実務訓練や国際会議への参加も奨励しています.海外で「えー,あー,うー」とならないよう,学生は常に研鑽を積む必要があるでしょう.もちろん,自分の度胸を試す機会は十分与えられます.例えば,共同研究を行っている海外研究機関がいくつかありますので,頻繁に外国人ゲストと話をする機会があります.また,私たちの研究室からは2004年から計27名の海外実務訓練生がフィンランドに渡航しました.彼らはフィンランド式の熱烈な歓迎を受けたようで,ひとまわり大きくなって帰国しました.また,毎年,フィンランドから留学生がVPACメンバーとして加わっています.もちろん,日常会話は英語です.

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最後に

研究生活は厳しいものです.しかし,新しいことを発見し,創り出していく刺激があってこその,そしてそれを感ずる心があってこその研究生活です.つらいだけの生活からはより良い研究成果は生まれません.うれしいことに,平成15年度より始まった情報工学系の優秀発表賞には,最優秀特別研究発表賞に6名 (平成16年度:西由紀子,平成19年度:鶴見俊輔,平成20年度:西野顕,平成22年度:中島加惠,平成27年度:田村秀希,平成29年度:近藤泰成),優秀特別研究発表賞に7名 (平成17年度:岩崎 宏明,小野内 達也,平成18年度:小林健一,平成28年度:伊藤和哉,平成29年度:Bui Minh Vu,平成29年度:中古賀理,平成30年度:若松滉太),最優秀卒業研究発表賞に5名 (平成15年度:岩崎宏明,平成16年度:打尾健太,平成25年度:新海崇紘,平成27年度:近藤泰成,平成30年度:小野寺和也),優秀卒業研究発表賞に12名 (平成17年度:小峰央志,鶴見俊輔,平成18年度:西野顕,平成19年度:山下卓也,平成21年度:加藤幸美,平成23年度:小港省吾,平成24年度:永井裕人,山岸理雄,平成25年度:田村秀希,平成27年度:Bui Minh Vu,平成29年度:金塚裕也,令和1年度:松本優希,令和2年度:中西優斗)が本研究室から選ばれています.その意味でも,私たちの研究室はいま大変充実していると言ってよいと思います.また,これとは別に,年度末には研究室内でその年に最も活躍した修士学生および学部学生をMaster of the Year, Bachelor of the Yearとして選んでいます.ときには研究に行きづまることもあるでしょう.そのときは,どうぞリフレッシュしてください.メリハリが大切です.研究室では様々なリフレッシュ行事が準備されています.こうしたメリハリのある濃密な研究生活がタフで繊細な精神を築き上げてくれるものと信じています.