視覚技術グループ 過去の研究
ファンデーションは,肌に塗布することで肌の色調や質感をコントロールし,肌をより美しく見せることができます.このファンデーションを塗布したときの仕上がりの美しさには,顔のどの部位にどれだけファンデーションが塗布されているかという分布情報が重要となります.しかし,これまで分布を画像計測する方法が確立されておらず,局所的な光学特性計測や人の目による官能検査に頼っていました.そこで私たちは,株式会社カネボウ化粧品と共同で,ファンデーションを非破壊に,定量的に,分布計測するこれまでにない計測技術を開発しました.それが上の図に示す“ファンデー ションの定量・分布計測システム”です.ファンデーションと肌の分光特性の違いを強調出力するように設計された 光学フィルタによって,顔に塗布されたファンデーションの分布を画像として撮影することができます.このシステムを用いてファンデーションの仕上がりを評価したところ,同じ女性に対して塗布する場合でもメイクの専門家と一般女性では専門家が塗るほうが美しく仕上がり,そのときの分布状態は全く異なることが分かりました.今後,カウンセリングや美容テクニックの開発や製剤開発への応用が期待されます.
[共同研究]
- 株式会社カネボウ化粧品スキンケア研究所
[関連論文]
- Ken Nishino, Mutsuko Nakamura,Masayuki Matsumoto,Osamu Tanno,and Shigeki Nakauchi,Optical filter for highlighting spectral features Part I: design and development of the filter for discrimination of human skin with and without an application of cosmetic foundation. Optics Express Vol. 19,Iss. 7,pp. 6020-6030 (2011) [外部リンク]
- Ken Nishino ,Mutsuko Nakamura,Masayuki Matsumoto,Osamu Tanno,and Shigeki Nakauchi,Optical filter highlighting spectral features Part II: quantitative measurements of cosmetic foundation and assessment of their spatial distributions under realistic facial conditions. Optics Express Vol. 19,Iss. 7,pp. 6031-6041 (2011) [外部リンク]
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ヒトには見ることの出来ない近赤外の光には,私たちが気付くことのできない様々な情報が眠っています.その豊富な情報量と可能性に期待し,私たちは近赤外の隠れた情報を取り出す研究に日々取り組んでいます.その一例として上に示しますのが,アレルギー性皮膚炎の評価を行ったケースです.アレルギー性皮膚炎と一言にいってもその種類は様々ですが,表面の腫れや赤みだけでは鑑別が非常に難しく,診断には医師の経験が不可欠です.しかし私たちの調査によって,接触皮膚炎(図左,Type IV)と蕁麻疹反応(図右,Type I)の判別要素が近赤外光に存在する可能性が示唆されました.
[共同研究]
- 浜松医科大学 [外部リンク]
食品の品質・おいしさは,含まれている成分が非常に大きく関わっていると言えます.例えば,塩味や甘味などの 味覚に直接関わる成分だけではなく,食感や舌触り,香りといった様々な性質も,含まれる成分の種類や量に大きく依存します.しかし,従来の理化学的な手法では,分析に関する知識や技術が必要で,薬品等の消耗品やも不可欠です.また,結果を得るまでに時間を要す,破壊検査であるという問題点もありました.本研究室では,成分特有の近赤外波長帯の光吸収 特性に着目し,光学的な計測により,簡易・迅速に,かつ非破壊で,食品に含まれている成分の分布を可視化し,品質評価へ応用する研究を行っています.上の動画は,透過特性を特別に設計した数枚の光学フィルタ画像から,牛肉の品質上最も重要な脂肪分と,柔らかく高品質な牛肉に多く含まれるオレイン酸の分布を可視化した例です.品質が高いとされる,オレイン酸が多く柔らかいとされるサンプルほど赤く,逆に少ないサンプルは青く表示されています.
[産学官連携研究]
- 浜松オプトロニクスクラスター
[共同研究]
- 三重県畜産研究所 [外部リンク]
- 住友電気工業株式会社 [外部リンク]
[関連論文]
- Ken-ichi Kobayashi, Yasunori Matsui,Yosuke Maebuchi,Toshihiro Toyota and Shigeki Nakauchi,“Near infrared spectroscopy and hyperspectral imaging for prediction and visualisation of fat and fatty acid content in intact raw beef cuts”,Journal of Near Infrared Spectroscopy,Volume 18,Issue 5,2010. [外部リンク]
- Ken-ichi Kobayashi, Masaaki Mori, Ken Nishino, Toshihiro Toyota and Shigeki Nakauchi,“Visualisation of fat and fatty acid distribution in beef using a set of filters based on near infrared spectroscopy”,Journal of Near Infrared Spectroscopy,Volume 20,Issue 5,2012. [外部リンク]
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人間の文明の中で,宝石はその希少価値と美しさから高い価値を見出されてきました.宝石の中でも真珠は,独特の光沢と色を持ち、貝の内部で養殖される特殊な宝石です.真珠の美しさはどこから来るのか,そしてそれは何に影響を受けるのか.私の研究では,真珠を照らす光源の分光分布を調整することで真珠の魅力を向上する研究を行っています.
シャインマスカットは黄緑色のブドウであり,裂果性が低く,糖度が高いといった特徴を有しています.近年では栽培数が急増しており,世界規模で注目を集めています.収穫適期判断のためカラーチャートが作成されていますが,栽培方法や収穫時期によって適合しない問題があります.そこで本研究では,栽培条件毎に適したカラーチャートを作成することを目指しました.栽培条件の異なる3条件のサンプルにおいて糖度と果皮色の関係を解析し,相関を確認した後,2通りの手法でカラーチャートを試作し,高精度で推定できることを定量的に示しました.
豚肉の菌の持つ蛍光成分を用いて菌数推定を行い,人の目では見ることのできない情報(菌数)の可視化に成功しました(右図).
[関連論文]
食品の加工現場では,食中毒や感染症を防ぐための手段として手の洗浄が重要視されています.しかし,厚生労働省の調べでは食中毒の患者が毎年2万人以上報告され,その死者の約73%が細菌によるものであることが報告されており,食中毒による被害を減らせていないのが現状です.このような被害を減少させるために手の洗浄度の評価方法が注目されていますが,現状では多くの検査時間が必要という問題があります.そこで私たちは,手に付着する”汚れ”の蛍光特性に着目し,高速かつ容易な手の洗浄度の評価および汚染分布イメージング手法を開発しました.これは,手に付着する”汚れ”から発せられる蛍光に着目し,その強度分布から手の汚染箇所を判定する手法です.これにより,手のひらの洗浄が十分に行われているかどうかの自動判別に成功しました.
LEDは,様々な照明スペクトルを持つものが存在し,それらを組み合わせることによって照明光スペクトルを自由に設計することが可能となっています.こうした特徴に着目し,特定の目的に合わせた機能を有する機能性光源が設計されています.従来の機能性光源は,設計したターゲットのみ使用可能でしたが,新たに実照射に基づくフレキシブルかつ迅速な自動照明設計システムを開発しました.これにより,照明設計までに要する時間を大幅に削減することが可能となり,60秒以下で目的の機能性光源を設計することが出来ます.上の画像は平均彩度と群間色差を最大・最小にしたときの例です.
日常生活の中で,ちょっとした色の違いを見分けるために目を凝らさなければならないという場面に遭遇した経験があると思います.本研究室では,色の違いを見分けることに特化したフィルタを設計し,眼鏡や鏡,カメラといったツールとして実現する研究を行っています.上の画像は,実際に設計された化粧ムラを強調するレンズ・ミラーと,レンズを通してディジタルカメラで肌を撮影した画像です.フィルタ使用時に,肌中央にある十字型の化粧の無い部分が強調されていることが分かります.
[共同研究]
- 株式会社カネボウ化粧品 [外部リンク]
我々の研究室では近赤外領域での分光画像計測により,物質の状態判別を行っています.上の図は氷と水のスペクトル差に着目してアスファルト上の氷と水を判別した例です.反射光の少ないアスファルト上でも高精度な氷・水判別に成功しています.
[産学官連携研究]
- 浜松オプトロニクスクラスター
[共同研究]
- 浜松オプトロニクスクラスター 「近赤外分光画像計測と応用開拓」
- 住友電気工業株式会社 [外部リンク]
ディジタルカメラで写真を撮ったとき,白とびや黒つぶれしてしまった経験はありませんか?これは,カメラのダイナミックレンジ(再現できる明るさの幅)が不足している為に発生する現象です.私たちの研究室では,通常のカメラでは撮れないような広ダイナミックレンジシーンを,人の視覚機能を模擬することで,我々が普段見ているシーンに近い形で再現する手法について研究をしています.市販のカメラで撮影した場合(左)では,日陰部分がつぶれてしまったり,カメラのAE(Auto Exposure)機能により動画に不自然さが発生してしまいまいますが,我々の手法(右)では自然な再現が可能です.
[産学官連携研究]
- 浜松オプトロニクスクラスター
[共同研究]
従来の色弱(2色覚)シミュレーションツールは,頻繁に信号や案内板に用いられているLEDなどの狭帯域型光源に対して正確にシミュレーションすることができませんでした.本研究室では,このような問題を考慮したシミュレーション手法を提案しました.上の例では,青色及びピンク色LEDを撮影しシミュレーションした結果です.この2色は2色覚者(1型)にとって非常に区別しにくい組み合わせですが,従来法では明らかに異なる2色にシミュレーションされてしまい,区別しやすいと判定できてしまう結果になってしまったのに対し,提案法では一様に同じ色が広がり,区別しにくいことが再現できていることがわかります.
洗顔前からの変化.青が保湿力が増加した領域,赤が減少した領域
現在市販されている肌の保湿力を計測する装置では,
1. 接触型:計測の度に皮膚状態が変化し,正確な継時変化が計測できない
2. ポイント計測:保湿力の分布を計測することは困難
という問題点があります.本研究室では近赤外領域での分光画像計測により,肌の保湿力の分布,継時変化の計測に成功しました.洗顔直後の上昇は洗顔により角層の水分が増加したこと,その後の値の減少は皮脂が洗顔に除去され生じた乾燥,30分以降の値の回復は皮脂が回復し角層の水分量がもどっていく様子を捉えたものと考えられます.
[共同研究]
- 株式会社カネボウ化粧品 [外部リンク]
私たちにとっては区別しやすい配色でも,色覚異常者にとっては区別しにくい配色であることがあります.本研究室では,色覚異常者が感じる色をシミュレートすることで,そのような配色を,半自動的にカラーユニバーサルデザイン化することが可能になりました.また,豊橋市に対しハザードマップの配色に関するアドバイスも行っています.
[共同研究]
- 東洋インキ製造株式会社 色覚ユニバーサルデザイン支援ツール
- 豊橋市役所 豊橋市地震防災マップ
- 浜松市役所 企画課ユニバーサルデザイン室 [外部リンク]
微生物に起因するリスクは様々なものがあります.近年“食の安全”への関心はますます高まっており,特に食品を扱う分野では,悪影響を与える微生物の迅速な検出が望まれています.
本研究室では,飲料の変敗を引き起こすAlicyclobacillus属細菌をターゲットとして,分光画像技術を応用した新しい迅速検出法の研究を行っています.この菌は,従来の検査法では目視に頼っていたため,培養に数週間を要すなど長い時間がかかり,迅速に検査をするには蛍光顕微鏡などの高額な装置と専門の知識が不可欠でした.
新しく開発した手法では,化学的な処理と,LED光源を用いた分光画像取得,インキュベータ(恒温器)の内蔵,画像処理等の技術の組み合わせにより,ほぼ自動で,迅速かつ安価な検出システムを実現しました.各部の特性の変更による様々な菌への適用のほか,研究分野への応用なども考えられています.
[共同研究]
- 株式会社サイエンス・クリエイト [外部リンク]
- 豊橋市役所 豊橋市地震防災マップ
- 有限会社フィット [外部リンク]
- 守田光学工業株式会社 [外部リンク]
- 豊橋技術科学大学エコロジー工学系 平石研究室 [外部リンク]
近年再び増加している光化学スモッグの主成分であるオゾンは「可視被害」を植物の葉に生じさせるため農作物の価値を低下させ,農家にとって直接的な経済的減収を引き起こしています.この問題を解決するために,本研究室では分光画像計測技術を用いてオゾンが植物に与える影響を可視化することで,植物の可視被害部位では,人の眼で見える波長帯域(670〜690 [nm])に先立って,人の眼で見えない波長帯域(780〜800[nm])の反射特性が大きく変化することが明らかとなりました.
食品の品質情報の可視化例として,メロンの糖度分布の可視化を行いました.この研究で,渥美農業高校が栽培した四角いメロンが,丸いメロンと同様に甘いことも示されました.
[共同研究]
- 株式会社サイエンス・クリエイト [外部リンク]
- 文部科学省|地域科学技術振興施策|都市エリア産学官連携促進事業(豊橋エリア「発展型」)
撮影時に私たちが見た風景と写真が違うと感じたことはありませんか?例えば,白飛びや黒潰れがあったり,風景が狭かったり,画像が粗いと感じたりすることはありませんか?これは私たちの視覚とカメラの違いによるものです.人間は,眼に入ってくる光をそのまま知覚するわけではなく,視線を動かし順応しながら広い視野のシーンを適切に取得・統合することで,外界を知覚しています.こういった人間の視覚機能を真似て,複数の撮影画像を統合することで,今までに無い広視野・広ダイナミックレンジの画像を作成,さらにシーンの特徴に基づいた,効率的な高精細画像の作成を行いました.このように,既存のカメラを用いて,私たちが知覚しているような画像を再現するWYSWYG(What You See is What You Get)技術について研究を進めています.
私達は顔から魅力や年齢,健康状態など様々な印象を得ることができます.とりわけ,「肌質感」はそうした印象 判断に大きく寄与しているとされ,肌の物理構造や光学計測を通してその関係を明らかにする試みがなされています.しかしながら,人は肌質感を画像中の特徴量から推定しており,物理計測だけではその本質を理解することは困難です.そこで私たちは,視覚科学研究の側面から画像特徴量と肌質感・印象の関係を明らかにすること,また,そうした知見を肌質感・ 印象評価技術に応用することを目指しています.