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10. 落書き

ここ数日,日に1度は雨が降り,気温もそれ程上がらず,せっかくの散歩習慣も途絶えがちだったのですが,ようやくこれぞフィンランド晴れといわんばかりの晴天に恵まれ,夕方(というか夜8時頃)に家族揃って新居の周りを散歩しました.新居は住宅地にあるのですが,いわゆる日本で言う住宅地とはずいぶん趣が異なります.車で郊外をドライブして気づいたのですが,本当の田舎というのは,驚くほどの田舎で,広大な畑 (かどうか怪しいです.とりあえず,草花が一面に広がった場所という意味です) に一軒家がぽつんとあり,その向こうに白樺の林,すきまから湖といった景色が広がっています.ですから,我々の住んでいるところは,アパートが何軒もある場所ということで都会に分類されるのでしょうが,とはいえ,森の中にアパートがあるといった感じで,日本のようにわざわざ「xx公園」のように作り付けの緑もありません.森の中には誰が作ったのか,鳥の巣箱があり,我々のアパートも巨大な巣箱を森に作ったという感じです.散歩コースには不自由しません.が,下手に慣れない森に入り込むと出てこられなくなるため,地図を片手に散歩します.ほとんどオリエンテーリングののりです.

こちらに移って何度か散歩をするうちに,周りの位置関係も把握でき,ようやく景色を眺める余裕ができた頃,ここフィンランドにも落書きがあることに気づきました.大体は橋などのコンクリート製の壁などに書かれています.コンクリート製ということですから,大体大きな道の側にあり,人目につくところです.森に落書きがあるのは見たことがありません.書きにくいのかもしれませんし,大体,森に落書きはあまり似合いません.アメリカの大都市などで見たことがある落書きは,きまってカラフルで,字体もアートしていますし,落書きする人も自身たっぷりに時間をかけて制作するのでしょうが,ここではほとんど単色で,字体にかろうじてアメリカで見られるようなポップな感じを醸し出そうとする努力が感じられる程度です.まったく地味な落書きです.大体はフィンランド語で書かれているので,意味はわかりません.あるいはグループの名前か何かかもしれません.

ちょうどその日は近所の保育園の横を歩いていました.保育園の建物の壁に落書きがあるのを見て,ちょっと気分を害しかけていました.でも,落書きも申し訳なさそうに小さく書かれていたので,書いた当人も後ろめたいのかな,などと適当に想像していました.滅多に落書きの内容まで見ないのですが,その日は特別に注意が向いて,その落書きを読んで見たところ,やはりフィンランド語なのでしょうか,よく読めません.ただ,2文字目がYOUと書いているので,英語かな,と思ってしっかり読んでみると,FACK YOUと書いているでは無いですか!お分かりでしょうか?スペルミスです.このままだと「あなたに真実を申し上げる」とでもなるのでしょうか.いやいや,本当にそう書いたのかもしれません.

地味なうえにスペルまで間違っている(と思われる)落書き事件は,思いもよらずフィンランド人の抜けきらない素朴さを教えてくれました.家内と「今日は本当に良いものを見せてもらった」と話しながら家に帰りました.

6/12/1998

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