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3.唯一の日本人

Helsinkiには500名を超える日本人の方々がいらっしゃるとのことですが,ここLappeenrantaにはほとんど見かけません.ここのフィンランド人に聞いても,見たことが無いという話ばかりでした.ところが先日,ここの大学にマスターの学生として留学している女性がいるらしい,カフェテリアで見たことがある,といううわさを聞きつけました.早速,色々と調べてみると,ここのChemical Engineering Departmentに留学しているY.Mさんという方が実在していることがわかりました.そこの教授が以前,京都大学に5年ほど滞在していらして,日本の先生とコネクションがあることから,そこの学生さんが1年間留学しているとのことです.

そこで,そこの研究室を尋ねてみると,教授の先生がいきなり「はじめまして」と流暢な日本語を話され,びっくりしてしまいました.研究室をざっと案内していただき,例の留学生も紹介していただいた後,カフェテリアで話をしていると,意外にもその教授の先生は「フィンランドには小さい国だからこその問題がたくさんあります.京都や東京は本当によかった.」とおっしゃるではないですか! 私が日本人だから言っているのではなくて,本当にフィンランドの田舎性を良く思っていないようでした.

留学している女性は東京工業大学から来ていて,出身は横浜ということです.彼女は昨年の9月から来ていて,冬をここで過ごしたことになるのですが,寒くて,暗くて,寂しくて,と,相当にまいっているようでした.今は友達もできて,その人達とアパートをシェアして暮らしているらしいのですが,よくよく話を聞いてみると,元来,わいわい友達とやるのが好きなようで,フィンランドに来る前も送別会やら歓送会やらで相当に盛り上がって,その勢いでここに来てみると,驚くほど静かで,9月だというのに寒くて,びっくりしたということでした.良く言われることですが,フィンランド人はそもそも人相は良くないし(申し訳ないですが,本当です),日本人ほど細かな気配りはないし,基本的に孤独を愛す国民ですから,彼女の期待はすっかり裏切られたということになります.私も,ここに来てお土産をあるフィンランド人に渡したときの態度にはびっくりしました.こんな調子です.

          「(私)これ,お土産です.気に入ってもらえると嬉しいのですが」
          「(フィンランド人)ありがとう.」
          「・・・・・・」
          「・・・・・・」
          「ええっと,開けてみてくれませんか?」
          「そうですね.」
          「・・・・・・・」
          「・・・・・・・」
          「えっと,どうですか?」
          「奇麗です.ありがとう.」
          「そうですか.それはよかった.」

誤解の無いように補足しますが,これは,アメリカ人のような反応を期待していた私がそもそも悪いのであって,日本人にお土産なんかを渡したときも大体こんな感じになることを思えば,なんでもないことです.日本人もしばしば頂いたお土産をその人の目の前で開けるのは失礼にあたるような雰囲気があったりして,その辺りはここも似ているのかもしれません.

彼女とも話をしたのですが,フィンランド人の態度を我々日本人の描いている外人,つまりアメリカ人とオーバーラップさせるのがそもそもの間違いで,フィンランド人をフィンランド人として理解しなければ誤解してしまうことになります.そういえば我々日本人も外国の方からは,良く分からないと言われますよね.フィンランド人の態度は日本人が最も理解しやすいと言われるのは,あながち嘘でもないかもしれません.

ちなみに,私は元来,田舎出身の人間ですから,ここの生活に特別不満もありませんし,むしろ自然に囲まれた豊かさを感じています.フィンランド人のぶっきらぼうな態度も,むしろ素朴に映りますし,こちらも気遣いする必要がないので,きわめて快適です.そんなことを留学生の彼女に話したら「永住するつもりですか?」と言われました.それは無いです.なぜなら,食生活には決して満足できないからです.食生活のことはまた報告するつもりです.

                                                                                                                                                    5/8/1998
 
 
 
7May01
5May01
大学のメインビルディング.
白樺林の中にひっそりとあります.夜8時の撮影.
 私の机の前の窓から見える風景.ここも当然白樺林です.
 
 
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