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25. Ha:meenlinnaとSibelius

雪が降る前にもう一度車で行けるところに行ってみようということになり,家族そろってHa:meenlinna(ハメーンリンナ)に出かけました.ラッペーンランタから約220km,車で2時間30分ほどですから,十分日帰り旅行の射程距離内です.もう少し足を延ばせばタンペレというところです.ハメーンリンナは「地球の歩き方」的に言えば最もフィンランドらしさを感じることのできる観光船「シルバーライン」の発着地(もう一個所はタンペレ)ということになります.残念ながらシルバーラインは夏期だけで,現在は運行されていません.我々の目的は,家内にとってはオラヴィ城,トゥルク城に続いてフィンランド三大古城の一つハメ城を制覇するため,私にとってはシベリウス生誕地を巡礼(?)するため,息子にとっては日頃の退屈をはらすため(?),ということになります.

ハメ城はシルバーラインの航路となる湖沿いにあります.赤煉瓦づくりの重厚な建物で,なるほど古そうだと感じさせます.掘(だと思うのですが)が星のような形をしているのも特徴です.観光シーズンはすでに終わり,我々が行ったときには我々の他に2組ほどが城内を歩いているだけでした.城の内部にある部屋のいくつかは貸し切ることもでき,結婚式,会議などの用途で使われることもあるようです.実際,その日も何かの会議が開催されていました.興味深々の私としては,会議室が一体どんな様子なのか調べるためにずけずけと会場へ歩いていったわけですが,係員の方が心配して私の後ろを付いて来てしまいました.どうやら道に迷った東洋人と見られたようです.心配いらない,ただ見学しているだけだ,と言うと,本当かという顔をしていましたが.内部の展示物は発掘調査のときに出て来た物が中心でした.Kalevala Koruというフィンランドの古い意匠を現在デザインに生かしたことで有名なメーカーがあるのですが,そのデザインの元になるいわゆる古い時代のブローチなども見ることができました.
 
 

ハメ城全景
煉瓦造りの重厚な建造物
発掘調査で出て来た物
古い時代のブローチらしい
城内は思ったよりも広く,それほど丁寧な道標も無かったため,たびたび道に迷いながらも,楽しく過ごしました.ただ,息子にとってはこんなものの何が面白いのかといった様子で,早く外に出ようとしきりに主張していました.息子の主張に負け,ハメ城を後にした我々はハメンリンナの中心街に向かいました.簡単に食事をした後,さっそく今度は私の目的であるシベリウスの生誕地を目指しました.前日,ハメンリンナのHPを見て,おおよその場所は頭に入れておいたはずなのですが,その場所を見つけるのに,少々手間取りました.というのも,かのシベリウスの生誕地というくらいだから,よほど大きなものだろうという私の先入観がそれを邪魔していたのです.「なんと,これか」と思うほど,小さな古めかしい家が巨大デパート群(といってもそれほどではありませんが)の間に取り残されたようにありました.事前の下調べをしていなかったら見つけられたかどうか怪しいくらいです.
 
シベリウスの生誕地
雑然とした商業地域に取り残されたようにあった
入り口近くにあった看板
これが無かったらそうだと気づかない
シベリウスが生まれたのは1865年,私が生まれる100年も前です.父親はハメンリンナ市の医官をしていたそうで,それなりの地位が認められていたそうですが,特に裕福であったわけでもなかったそうです.実際,この家もそれほど大きくもなく,しかも借家でした.シベリウスがこの家に住んでいたのは3歳までで,23歳には家族揃ってヘルシンキに引っ越しています.それでも,ハメンリンナにあるシベリウス記念館としてこの生家が選ばれました.

早速中に入ると,入場者は他になく我々だけでした.受付けで入場料(一人15FIM) を払い,隣の部屋に行こうとすると,パンフレット(有料) の日本語訳のコピー(これは無料)が必要ならどうぞ,と受付嬢が親切な言葉をかけてくれました.それだけでなく,お気に入りのシベリウスの曲があれば,それをBGMとして鳴らしてくれると言うのです.シーズンオフで観光客がいないからなのか,通常のサービスなのかよくわかりませんが,非常に粋なはからいです.家内が「フィンランディア」などと言わないうちに,私の(ほぼ)一番のお気に入りである「トゥオネラの白鳥」をリクエストしました.館内にはシベリウスが子供当時の写真や,シベリウス家の破産申請書(シベリウスが3歳のとき,父親が死に,その後借金で一家は破産してしまいます.その結果,この生家を離れることになったそうです.)など,それといってシベリウスの音楽に関るものは多くはありませんでした.ただ,シベリウスが弾いていたというピアノがシベリウスの写真とともに置かれていました.シベリウスの音楽を聞きながらシベリウスが弾いていたピアノを眺め,本当に充実した時間を過ごすことができました.
 

シベリウスのピアノ
後ろにシベリウスの写真が見える
シベリウス生家の受付け
BGMのリクエストという粋なサービスに嬉しくなりました.
シベリウス関係の博物館といえば,確かにトゥルクやアイノラなどの方が有名です.ただ,有名な分だけ入場者も多いでしょう.ここは本当に静かでした.こだわるようですが,BGMのリクエストを受け付けるなど,私にとっては初めての経験です.一応,ピアノも見ることができましたし,シベリウスの写真も拝みました.満足げな私を見て,息子もそれを理解したのか,「音楽聞いてよかったねえ」と言ってくれました.さすが私の息子です.
 
10/18/1998

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