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23. Open Kindergarten (Avoin Pa:iva:koti)

8月中旬から,他の学校と同様,再び保育園が始まりました.5月にこちらに来てからわりとすぐにこの保育園の存在を知っていて,息子がフィンランド人の友達ができるようにという理由と,家内にもフィンランド人の友人ができればという淡い期待,それからフィンランドらしいものならば何でも体験すべきだという,若干無責任ぎみの私の希望から,家内に息子をその保育園へ連れて行くようにと薦めていました.5月中旬から,私の仕事の同僚の奥さんにも助けられて家内と息子はその保育園に通っていたのですが,6月から8月上旬までは夏休みということで,しばらく保育園はお休みしていました.

男女平等の精神はどの国よりも強く意識されているフィンランドですが,掛け声だけはすばらしい日本とは違って,例えば女性労働者をケアする社会システムもさすがに進んでいるようです.その一つの例が未就学児童教育システムで,人口密度の低さにもかかわらず保育園の数は日本よりも充実しているような印象を持ちました.ただし,その保育園に子供をあづけるには両親が働いていなければならず,両親の収入に応じた費用を徴収される仕組みは日本のそれと似ています.我が息子は,もちろん母親は働いておらず,しかも子供はフィンランド語を理解しないので,なかなかそうした保育園に通うことは難しいようです.ところが,日本と違う点は妊婦や失業中のお母さん,そして外国人のお母さんを対象にしたもう一つの保育園があることです.現在,家内と息子が通っている保育園がそれで,全ての街にあるわけではないのだそうですが,幸い我々の住んでいるLappeenrantaにはそれがありました.週に3日,午前8時30分頃から11時30分まで,親が付き添う必要があるものの,子供をその保育園に預けることができます.費用は全て無料で,入園の手続きらしいものは特に無く,ただ名前を簡単な用紙に記入すれば良いだけでした.フィンランド語でAvoin Pa:iva:kotiといい,直訳するとOpen Kindergartenとでもなるのでしょうか.市が運営しているようです.保母の他,保健婦さんのような人(これも直訳すると看護婦になるので,おそらく保健婦さんだと思うのですが)が子供たちの世話をします.保育園といっても,日本のようないかにも保育園といった建物があるわけではなく,普通の民家を少しばかり改造したような建物を使っていました.
 
 

民家の玄関のようなところにあった看板
これを見逃すと保育園とは気づかない
保育園内部
子供達はおもちゃで遊び,親は歓談といった様子
いかにもフィンランドらしいシステムなので,私も興味がありました.家内にビデオを撮ってこいとか,デジカメで写真を撮ってこいとかずいぶん頼んではみたのですが,とても恥ずかしくて出来ない,そんなことを言うあなたが撮ってくればどうだ,と言われ,なるほどその通りだと納得してはみたものの,私もさすがに奥様たち子供たちであふれかえる保育園にいそいそと出かけていく勇気もありませんでした.

ある日,いつも親しくしている家族に3人目の子供が生まれ,ご主人も産休のため2週間の休みを取れることになりました (日本でも父親が2週間も産休をとれましたっけ?).いつものように,外で井戸端会議をしていたとき,ちょうど保育園が話題がのぼり,私が保育園に興味があると言うと,そのお母さんが「私も主人に子供たちを保育園に連れていってくれと頼んだことがあったけど,とても恥ずかしくて行けないと言うのよ」とお父さんの方を見ながら言います.お父さんも「さすがにお母さん子供たちが多すぎて...」と頭をかいています.そんなところは日本のお父さんと一緒だな,などと感心していると,「それじゃあなたたちが一緒に行けばどう?」と妙案(?)が提案されました.私も誰か男性が他にいれば,しかもフィンランド語のできる人がいれば安心なので,その話に乗ることにしました.話はすぐにまとまり,我々お父さんの保育園初体験となったわけです.

そのお母さんが事前に保育園の保母さんに連絡を入れてくれていたため,我々が保育園に入ると妙に我々を歓迎するような空気がありました.他のお母さん達も興味しんしんの様子で,すこしばかり恥ずかしかったのですが,さらには,友人が日本にフィンランドの保育園を紹介するためにこうして私がやってきたというような,あまりに誇大な紹介をしてくれたため,こうなれば恥ずかしいということも言っているわけにもいかず,せっせとビデオ,写真を撮ることに決めました.

息子が日本の保育園に通っていた頃にも,2,3度運動会とかおゆうぎ会とかに参加したことがあったのですが,その時は日本のお父さんのほとんどがビデオ,カメラを手にしており,いわば日常的な風景として父親達が映っていたのでしょうが,今回はそうした特別イベントがあるわけでもなく,ビデオ,カメラを手にした不思議な東洋人としてフィンランドのお母さん達に映ったことは,まず間違いありません.それでもみんな好意的で,息子が良く映るように気を配ってくれたりして,そのときばかりはさすがに恥ずかしく感じました.

さて,保育園での活動は,私が見る限り日本と同じです.子供達が興味を持つものはそれほど違わないのでしょう.特筆すべきことがあるとすれば,

  1. 開園時間は非常に曖昧で,各自適当に保育園にやってきて,適当に遊び始める
  2. 基本的に子供達は勝手に遊び,親たちも子供にそれほど注意をよせない
  3. 親達のためのコーヒーが準備されている
  4. 歌,踊り,ハンドクラフト(?)が活動の中心
  5. 製作するものはフィンランドらしいものが多い(茸,はりねずみ,ナメクジ,などなど)
でしょうか.私が行ったときは粘土でナメクジを作りました.製作活動に入る前に保母さん達がナメクジについての簡単な寸劇をやってくれ,ナメクジとはどんなものだ,というようなことが説明されました.残念ながら全てフィンランド語だったので理解できませんでしたが,友人の協力により,とにかく粘土でナメクジを作れば良いということだけはわかりました.先日は茸を作ったようですが,そのときにもスライド上映があって,どれが毒茸でどれが食べられる茸かなど,非常に生活に密着した講演(?)があるようです.おかげで息子も大の茸好きになりました.
 
ハンドクラフト製作前の講演
今回はナメクジについて
講演を見る息子
言葉はわからなくても興味はある様子
 
 
歌の時間
全てフィンランド語のため,理解不能
踊りの時間
左に恥ずかしそうに背中をまるめる友人が見える
 
帰り際,保母さんたちにお礼を言って帰ろうとすると,「ぜひまた来てください」と言われました.大変ありがたいお言葉ですが,非常に緊張を強いられる保育園突撃だったため,にっこりと笑って返事を濁しました.一緒にいった友人も「今回は良い経験だった.しかし一度で十分だ」と言っていたのには私も大きくうなずいた次第です.
それでも,家では親にべったりの息子が,保育園では一人で椅子に座り,踊ったり歌ったりしている (というか,そうしようと努力している) 様子を見ることができたのには満足しました.恥ずかしがっているのは結局父親だけのようです.
9/30/1998

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