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22. サウナの正しい入り方 (How to take SAUNA)

8月も終わり,ほぼ夏も終わりに近づいた頃,最後の夏のイベントとして私の同僚2人がはるばる日本から訪ねて来てくれました.といっても,もちろん学会帰りに立ち寄ったというのが正確で,フィンランドに来る前はイギリス(オックスフォード)でしっかりと都会の味を堪能してきた後でした.日本への帰りに寄るといっても,ヘルシンキからここまでは電車で3時間もかかりますし,そう気楽に寄れる場所でもありません.その意味では「わざわざ」来てくれたと言った方が良いかもしれません.

というわけで,わざわざこんな田舎まで足を伸ばしてくれたのですから,何かおもてなしをと考えては見たのですが,夏のイベントはどれも終わり,街をぶらっと,といってもそれほどパッとしたものがありません.もちろん,湖の景色は最高で,存分に散歩をどうぞ,という手もあったわけですが,散歩初心者では時間を持て余すに違いありません.やはり最後の(というかこれしかありませんが)おもてなしであるサウナに招待することにしました.

サウナはフィンランド国内であればどんな小さなホテルにもありますから,サウナそのものは珍しいものではありませんが,フィンランドを満喫できるサウナとなると,少々限られてきます.フィンランドと言えば森,湖,ビール,ソーセージ,蚊,そしてサウナと,これくらいはキーワードとしてはずすわけにはいかないのですが,ランタサウナ:rantasauna (ranta=shoreの意味で湖畔に立つ伝統的なサウナ)はこれら全てを揃えています.幸いにも私の所属している大学は自前のランタサウナを所有していて,我々スタッフは予約すればいつでも使えます.そこで,これを同僚2人に体験してもらおうということにしました.
 
 

ランタサウナの入り口
全て木で作られている門が気分を盛り上げます
ランタサウナ外観
右に見えるホースは湖まで繋がっています
 

さすが大学所有ということで,設備は万全です.向かって右側がサウナ,体の洗い場の2部屋,左側が暖炉のある団欒のための部屋です.一般家庭に比べて結構大きな部類に入るのではないかと思います.といっても,もちろん水道はありません.したがって湖から水を汲んでこなければならないのですが,そこは少しだけ文明の利器が導入されており,ポンプで水を汲めるようになっています.しかしながら,サウナのストーブ,お湯などは全て薪による火を利用します.しかし,今年のフィンランドは異常に雨が多かったため,薪が湿りがちです.我々初心者には火を起こすのは難しいだろうと判断し,ガソリンスタンドで乾燥された白樺の薪を購入しておきました.

さて,まずサウナに着いたら火を起こす必要があります.サウナストーブ,暖炉,お湯を湧かす釜,そして外のバーベキュー場の4個所です.ここのサウナ室は結構広いため,火を起こしてから1時間くらいは暖めなければなりません.とにかく,十分な薪を入れ,火を起こし,何度か薪が足りているかチェックしながら温度が十分に上がるのを待ちます.通常は部屋の中に温度計があり,大体80〜90度になればOKです.残念ながらここの温度計は壊れていましたが,フィンランド在住4ヶ月の筆者は既に適温を肌で判断できるようになっていましたので,問題ありません.
不安がる同僚を横目に「心配ない」を連発し,少しだけ優越感に浸ることができました.

サウナは夕方6時から夜中の12時まで,延々6時間も予約しておいたため,少々の作業の不効率さは問題になりません.ただし,夕食をそこで取る必要があるため,外のバーベキュー場の火は非常に重要になります.バーベキュー場とは書いてはみましたが,日本のキャンピング場にあるような立派なものではなく,単に金網があるだけです.ですから,それほど立派な食事は作れそうもありません.フィンランド人に言わせればサウナといえばビールとソーセージがあれば十分ですから,金網があれば問題なし,というわけです.我々はちょっと冒険して角肉を串に刺したいかにもバーベキュー用とおぼしき肉を買っていたため,なんとかこれを外で調理したいと考えていました.
 
 

サウナ室のストーブ
薪で火を起こし,上にある石を暖める
洗い場の湯沸かし鍋
湖の水とお湯をブレンドして適温にする
夕食を作るためのバーベキュー場
これがうまくできないと夕食にありつけない
固形燃料とマッチが一体となった優れもの
我々初心者にはありがたい
あれこれ苦戦はしたものの,なんとか全てに火がつき,サウナの温度も十分になってきたところで,早速サウナにチャレンジしました.今回は彼らにぜひとも湖で泳いで欲しかったので,水着を持参してもらいました.もちろん,こちらの人は水着など着ませんが,ここは日本人だけということで,日本の習慣を持ち込ませていただきました.さて,サウナに入る前には体,特に髪の毛を十分濡らしておく必要があります.髪が傷むのを防ぐためだと聞きました.後はサウナに入り,ストーブの上の石に水をかけ,ジューという音とともに上昇する温度を体全体で確かめるだけです.「サウナにはルールは無い」とフィンランド人に聞きましたが,そのわりにあれこれ「うんちく」があるのはどこも一緒です.体が十分に暖まり,汗が体を流れるようになったら,一度外に出て涼みます.ここで必要であれば湖に飛び込むわけですが,9月の湖は非常に冷たく,飛び込むのはお勧めしません.同僚たちは私に促されるまま湖に入りましたが,冷たさを通り越して痛さを感じていたようです.かく言う私も湖に入りましたが,特に湖の底はしびれるほどの冷たさでした.あとは,再びサウナで汗を流し,湖で凍え,というプロセスを繰り返すだけです.何度か繰り返しているうちに,ものを考える気力は失われ,それと反比例するようにサウナの暑さが苦にならなくなってきます.しかし,体から出る汗の量に注意しておく必要があります.出る汗の量が少なくなってきたら終了の合図です.それ以上入り続けると決まって気分が悪くなります.

我々は都合4,5回,このプロセスを繰り返し,まさにサウナを満喫しました.サウナに入る前には夕食のことが気になっていたのですが,サウナの後,ビールを飲んでしまうと,もうどうでもよくなってしまいました.一応,バーベキュー肉も焼いてはみたのですが,結局は暖炉で焼いたソーセージが何よりもおいしかった次第です.さすが,フィンランド人の知恵です.サウナにはソーセージとビールがあれば良いといったのは,我々の物欲,食欲,思考力がサウナによって全てリセットされるという状況を全て考慮した上での発言だったと,そのときに知りました.

「サウナ,おそるべし」です.

9/7/1998
 
 
サウナを満喫した同僚達
表情からも彼らの思考能力が
完全に欠落している様子が伺える
夕日が映り込む湖に入る同僚
こんなことをするのも,思考能力の
欠如によるところが大きいと思われる
 
 
サウナの仕上げはソーセージ
鉄の棒にソーセージを差し
各自がそれぞれの責任でソーセージを焼く
 


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